| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-029 (Poster presentation)

植物生産モデルによる潜在生産力の将来予測

*渥美和幸, 太田俊二(早稲田大・人間科学)

植物生産は気候資源に大きく依存しているため,変動気候下での植物生産力が気候から受ける影響は今まで以上に大きくなると見込まれている。植物生産力に対する正味の気候変動の影響を把握するためには,気候資源にもとづく潜在生産力による評価が有効である。本研究では,将来気候下の潜在生産力を推定し,季節変動パターンに着目して解析を行った。

著者は,気候資源にもとづいて,日単位で生産力を推定する植物生産モデルを開発した。このモデルで考慮されている生物物理的,生理生態学的プロセスは一般気象要素で駆動される。このモデルでは,日々の生産力と炭素分配にもとづいて植物の生長が計算されるため,気候に対応した葉の季節変動を推定することができる。

気候モデルの出力値である将来気候データをこのモデルに入力し,将来の潜在生産力を推定した。使用した気候データは,複数のRCP(代表的濃度経路)シナリオにもとづく将来予測結果である。このモデルで推定された将来の生産力の季節変動パターンを約10日の旬単位で分析し,現在のパターンと比較した。

いずれのRCP気候下でも,将来の潜在生産力は,年単位では概ね現在より増加すると予測された。この傾向は植物機能タイプごとに異なり,落葉広葉樹で最も顕著な増加がみられた。気温上昇による葉の生育期間の長期化が,その増加に大きく寄与していた。ところが,生産力の変化を旬別に分析したところ,温暖化が最も進行するRCP 8.5のケースでは,葉の生長のピーク時の純生産量は現在と比べ低下する傾向があった。この背後のメカニズムとして,温暖化が進行すると,夏季に総生産量より呼吸量の方が現在と比べ大きく増加する傾向があることが挙げられる。これらの結果から,気候変動が植物生産に及ぼす影響を旬単位で調べることの重要性が示唆された。


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