| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-030 (Poster presentation)
新たな環境への適応は、集団間分化や種形成を介して生物多様化に寄与している。本研究は、植物の潮汐周期で冠水する環境への適応を、アブラナ科オオバタネツケバナ (Cardamine scutata)の野生集団を用いて実証的に明らかにすることを目的としている。オオバタネツケバナの木曽川河口域の潮汐集団は、12.4時間の潮汐周期で冠水する環境に生育し、その環境は一般的な生育地である渓畔とは大きく異なる。そして渓畔集団は複葉を形成するのに対し、潮汐集団は単葉化していることが知られている(芹沢ら, 2002)。
本発表では、木曽川河口域の2つの潮汐集団とそれぞれに近接する2つの渓畔集団を対象に、野外調査、非冠水栽培実験、冠水栽培実験によって比較した結果を報告する。①非冠水条件下では乾燥重量比に集団間差異がなかったが、冠水条件下では潮汐集団の方が大きくなった。②潮汐集団は渓畔集団よりも遺伝的に、茎の伸長速度が大きかった。③潮汐集団は渓畔集団よりも、光合成速度、気孔コンダクタンス、光合成窒素利用効率が高かった。④潮汐集団は遺伝的に、単葉化し、茎の中空が大きく、枝分かれパターンが変化して匍匐する草型となった。
以上から潮汐集団の適応戦略として以下の仮説を考えた。潮汐集団は光合成に重点を置くことで茎の速い伸長を可能にし、花序を濡れにくくしている。側茎分岐が上部で起こることは、低コストで水上に花序形成できる利点がある。その分、匍匐しやすくなるが、中空が浮き袋の役割を果たし、匍匐した茎は冠水時に起き上がる。
単葉化や他の分化形質に関わる候補遺伝子群の発現解析結果についてもあわせて報告する。