| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-034 (Poster presentation)

ハイマツ実生の発生と生存に作用する要因

*雨谷教弘, 工藤岳(北大院・環境), 和田直也(富大・極東)

気候変動の影響を受けやすい高山生態系では、温暖化により急速な植生変化や潅木の分布拡大が生じている。北海道大雪山国立公園においても、気温上昇と雪解けの早期化が進行しており、過去32年間でハイマツの植被面積が約14%拡大していた。分布拡大には、個体成長の促進と個体群拡大の二つの変化が考えられる。これまでの成長解析により、ハイマツの伸長成長は夏期の気温との関連性が強く、近年の気温上昇に伴い増大する傾向が示されている。一方で、春の温暖化と雪解けの早期化は、霜害の危険性を高める可能性も指摘されている。これらの気候変動は個体群動態にも影響すると予測される。本研究は、ハイマツの球果生産、ならびに実生の発生や生存にどのような要因が関係しているのかを調べた。

大雪山ヒサゴ沼付近の風衝地に20×20mの方形区を設定し、1994~1999、2013~2015年に全てのハイマツ個体をマッピングし、追跡調査を行なった。樹齢30年未満の個体に対しては樹齢計測を行い、周囲の植生を記録した。方形区の近くで500枝の球果痕、ならびに20枝の伸長量の測定も行なった。また、近隣の雪田周辺のハイマツ群生地と北大雪山域においても球果痕調査を行い、球果生産の年変動を調べた。データ解析は一般化線形混合モデルと自己相関モデルにより行った。

解析の結果、球果はほぼ隔年間隔で生産され、伸長成長同様に夏の気温と相関が見られた。7月の土壌積算温度が高いほど実生の出現数が多く、8月の平均気温が高いほど翌年までの生存率が高かった。ハイマツのリターと地衣類が混在している場所で生存率が高かった。近年の調査では0〜2年生の実生数が減少していたが、総個体数はほぼ変わらず、樹齢6年を超えた個体が増加傾向にあった。このことから、気温上昇は個体成長だけでなく、個体群構造にも影響を与えていた。


日本生態学会