| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-039 (Poster presentation)
常緑多年草オオミスミソウ (Hepatica nobilis var. japonica f. magna)は一般に落葉広葉樹林の林床が生息環境とされている植物であるが、佐渡島の新潟大学演習林では常緑針葉樹ヒノキアスナロの天然林にも自生地が存在する。異なる森林タイプ間では環境が異なり、自生するオオミスミソウも環境の違いに対して形態的あるいは生理的な順応を示している可能性がある。そこで本研究では、オオミスミソウが本来の生息環境とは異なる森林タイプ下で生育できる要因を明らかにすることを目的に、オオミスミソウ個体群間の生息環境の違いと、個体の形態の違いを調査した。
佐渡島のオオミスミソウ自生地3カ所(落葉広葉樹林2カ所、ヒノキアスナロ林1カ所)に調査地を設定し、環境要因として夏と秋の開空率、土壌水分、土壌硬度、斜面傾斜を計測した。植生についても合わせて調査した。また、個体の形態として葉面積、LMA(単位葉面積あたり乾燥重量)を測定した。
開空率の季節変化は調査地ごとの林相・植生を反映して、落葉広葉樹林では夏から秋に大幅な上昇を見せ、ヒノキアスナロ林ではほとんど変動しなかった。地形・土壌環境は、急傾斜で乾燥した落葉広葉樹林、平坦で湿潤なヒノキアスナロ林に二分された。調査地間の出現種の違いもこれらの環境の違いを概ね反映したものとなった。葉面積は、ラメットごとの平均値・最大値ともに、ヒノキアスナロ林において落葉広葉樹林より明らかに小さくなった。LMAもヒノキアスナロ林で他調査地に比べて有意に小さい値となった。また、各種環境要因と個体の形態の関係を調べた結果、LMAと秋の開空率の間で有意な正の相関が見られた。
以上の結果から、ヒノキアスナロ林下のオオミスミソウは葉を薄く、地上部サイズを小さくしていることで年間を通した弱光環境に適応していることが示唆された。