| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-047 (Poster presentation)

連続的標高勾配に沿ったアキノキリンソウ(広義)の遺伝構造の検出:垂直分布における遺伝的障壁は何か?

*木村拓真(東北大・院・生命),阪口翔太(京大・院・人環),伊藤元己(東大・院・総合文化), 永野惇(龍谷大・農,JSTさきがけ,京大・生態研セ),工藤洋(京大・生態研セ),牧雅之(東北大・植物園)

山岳地域などの標高勾配が存在する場所では、地理的距離が比較的近いにもかかわらず、気温や紫外線などの生育環境が劇的に変化する。アキノキリンソウ(広義)は、日本の各地の山岳地域において、低地から高山帯にかけて標高に沿って連続的に分布する植物であり、標高に応じた形態的変化が見られる。このような植物では、標高の異なる隣接した集団間で遺伝子流動が存在する一方で、標高傾度による生育環境の違いにより、局所適応が生じている可能性が考えられる。そこで本研究では、アキノキリンソウ(広義)を材料に、標高の異なる集団間での遺伝的な比較を行うことで、植物の高山適応のメカニズムを探ることを目的とした。

まず、中部から北海道の18山系を対象に、同一山系内からそれぞれ低地集団と高山集団を採取し、葉緑体DNAの塩基配列を決定して分布変遷の推定を行った。その結果、各山系の高山-低地集団間及び山系間では各集団のハプロタイプ構成に大きな変化は見られず、共通の分布変遷を辿ってきたことが示唆された。次に、白馬岳と鳥海山の2山系を対象に、標高沿った連続的なサンプリングを密に行い、Rad-seqから得た複数のSNPsを用いて、標高間での集団遺伝構造を推定した。その結果、両山系ともに樹林帯付近を境に遺伝的構成が大きく変化することが明らかとなった。以上のことから、アキノキリンソウ(広義)は、過去急速な分布拡大を経たのちに、現在では山岳地域の標高間で遺伝的分化が生じていることが示唆された。本発表では、標高に応じた生育環境の違いに着目し遺伝的分化の要因についてさらに考察を行う。


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