| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-051 (Poster presentation)
種子の休眠性や発芽好適条件にはさまざまな変異が存在し,それぞれの生育環境に適応した結果と考えられている。これまでの研究では少数の集団のサンプルをもとに種の発芽特性が論じられ,多数の集団の発芽特性を比較することで種内変異の実態を明らかにした例は少ない。そこで本研究では,広域に分布するヒメガマTypha angustifolia L.の種子発芽特性に着目し,その集団間変異を調査した。
北海道から沖縄まで全国31 集団の種子サンプルを得た。採集した種子は休眠性の有無を調べるため0,2,4,8 週の低温処理を施した。発芽条件は,温度(恒温/変温),光(明/暗),酸素(好気/嫌気)の各条件を組み合わせた8 条件とした。
その結果,ヒメガマの種子発芽特は集団によって異なることが明らかとなった。温度条件については,変温で発芽が促進された集団が14 集団あり,残りの17集団は恒温と変温の間に有意差がなかった。光条件については,すべての集団が明条件で有意に発芽が促進されたが,暗条件でも高い発芽率を示した集団が3 集団あった。酸素条件については,すべての集団が好気条件で発芽し,嫌気条件では発芽しなかった。発芽特性と生育する水域タイプとの間に明瞭な関係性は認められず,よりミクロな環境条件との対応を検討する必要性が明らかとなった。種子の休眠性は沖縄本島以北のほぼ全ての集団が休眠性を有していたのに対し,山形と石垣島,西表島の集団は非休眠であった。石垣・西表島の集団と沖縄本島以北の集団との間に不連続な差異が存在することが示された。また,山形集団のように特異な発芽特性を持つ集団が存在することが示唆された。