| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-053 (Poster presentation)
1990年代以降、日本各地でシカの著しい増加が森林生態系に大きな影響を与えている。京都大学芦生研究林でも、ニホンジカの食害により林床植生が激減している。その一方で、競争相手が減少したためアシウテンナンショウなどの不嗜好性植物は顕著に増加している。テンナンショウ属の1種では、シカの食害強度の増加に伴う土壌環境の悪化により個体群の性比がオスへ片寄ることが報告されており、芦生研究林でもメス個体の減少によって有性生殖が妨げられている可能性がある。加えて、本種は分球による無性生殖を行うため、近年急速に増加した個体はクローンであると推察される。したがって、強度のシカ食害下にある本種の個体群は、遺伝的多様性が低く、環境の変動や病害に対して脆弱な状態であるかもしれない。不嗜好性の植物個体群の遺伝構造は、シカ害を受けている下層植生の今後の変化を知る上で重要と考えられ、さらにアシウテンナンショウは絶滅危惧種に指定されているため、保全生態学的な観点からもその重要性が認められる。本研究では、強度のシカ害下にあるアシウテンナンショウ個体群の空間分布および遺伝構造を明らかにすることを目的とする。2015年に芦生研究林に30m×120mの調査区を設置し、アシウテンナンショウの個体位置、サイズ、性表現を記録した。その結果、調査区内に1095個体の自生が認められたが、そのうちオス個体は4%(42個体)に満たなかった。更に、メス個体が存在せず、当年生実生も発見できなかったことから、少なくとも2年間は有性生殖が行われていない可能性が高い。また、小葉が4枚以上の個体の葉を採取し、マイクロサテライトマーカーを用いて解析を行い、個体群の遺伝構造を明らかにする。