| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-061 (Poster presentation)

ブナにおける標高傾度上での成長速度、繁殖開始・最大到達サイズの変化―競合種の有無による違い―

*中川宏記・近藤博史・酒井暁子(横浜国立大学・院・環境情報)

生活史の類似性や異質性を理解することは現代生態学の基本的な研究課題の1つである。Sakai et al.(2003)は、山を上がるに従って樹木が小さくなるのは、環境の悪化の直接的な影響だけでなく、成長と繁殖への資源分配スケジュールの変更による適応的な変化であるとの仮説を立て、八甲田山のオオシラビソで支持する結果を示した。

今回我々は、1)一般性を検証するために他樹種(ブナ)を対象とし、また上記はほぼ純林だったので、2)分布上限付近で他種と競合する場合(青森県八甲田山;分布上限でオオシラビソと競合)、しない場合(青森県岩木山;偽高山帯に接続)で比較を行った。

八甲田山(標高400〜900m)、岩木山(700〜1100m)で調べた結果、全体を通じて、林冠への到達と繁殖開始がほぼ同時で、繁殖開始以後急速に成長率が下がり、繁殖開始サイズと比例的に最大到達サイズが決まっていた。また、岩木山のブナでは標高を上がるに伴い最大到達サイズ(23→8.5m)、繁殖開始サイズ(20→5m)が顕著に低下した。以上のことは、前報の一般性を支持する結果となった。

一方で、八甲田山のブナでは、岩木山と同様に標高に伴って最大到達サイズ(26→20m)と繁殖開始サイズ(21→13m)は低下したものの、比較的高い樹高のまま分布上限に達していた。また、繁殖開始後の成長率が開始前より劣る傾向が、とりわけ高標高の樹高伸長に関して顕著であった。

生活史理論は、同一種でも環境によって異なる成長・繁殖スケジュールが進化することを予測する。本研究から、高木性木本種においても、標高傾度上でそうした適応的変化が生じること、その際、林冠で競合する他種の存在の有無が変化様式に影響することが明らかとなった。


日本生態学会