| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-063 (Poster presentation)
動物媒植物の花色は、異なる送粉者への適応を通じて著しく多様化したと考えられている。しかし、必ずしも花色変化が送粉者相の変化に繋がるわけではない。昼咲きアゲハチョウ媒のハマカンゾウHemerocallis fulvaと夜咲きスズメガ媒のキスゲH. citrinaの雑種を用いた野外訪花実験では、アゲハチョウは一貫して赤花を選好したが、スズメガは花色への一貫した選好性を示さなかった。この結果は、スズメガが赤vs黄ではなく他のシグナルに反応している可能性を示唆する。
ハマカンゾウとキスゲの花はどちらも、紫外線を吸収する中心部と反射する周辺部からなるUV蛇ノ目紋を持つ。ただし、周辺部の紫外域における反射率は2種間で異なり、中心部と周辺部の色コントラストはキスゲの方が強い。発表者はこの蛇ノ目紋のコントラストの違いに着目し、スズメガはコントラストの強いキスゲ的な花を選好するという仮説を立て、検証した。第一にアゲハチョウとスズメガの認識するコントラストの強さを数値化し、ハマカンゾウとキスゲで比較した。第二にハマカンゾウ 24 株と雑種 12 株を用いて進化の初期段階を模倣した野外訪花実験を行い、コントラストの強さに対する送粉者の選好性を調査した。その結果、アゲハチョウでもスズメガでも、認識するコントラストはキスゲの方が有意に強かった。訪花実験では、アゲハチョウはコントラストの強さへの有意な選好性を示さず、スズメガはコントラストが強い花を有意に選好した。またアゲハチョウ、スズメガはともに花色への有意な選好性を示さなかった。この結果から、スズメガは花色自体ではなく蛇ノ目紋のコントラストを訪花の際の手がかりとしていると考えられる。