| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-064 (Poster presentation)
担子菌類の形成する子実体は多様な動物に利用される。特に双翅目の繁殖場所として利用され、子実体に産卵された幼虫は子実体を摂食し成虫になるが (Hackman & Meinander 1979)、幼虫の生態はあまり報告されていない。大型の子実体を形成する外生菌根菌は高頻度に菌食性双翅目の一種であるモモグロオオイエバエ幼虫が生息することが報告されており(Akaishi & Nakamura 2005)、本種は土壌中で蛹化する特徴をもつ(中筋 1965)。外生菌根菌はマツタケなど食用可能な子実体も多く、人工栽培も試みられているが、外生菌根菌の胞子の野外での生態は詳しくわかっていない。菌類の繁殖様式は菌糸によるクローン生長と有性生殖による胞子繁殖と2通りある。外生菌根菌は発芽率が低いためクローン生長が主体と考えられていたが、集団内遺伝子多型解析により近距離間でも胞子繁殖が頻繁に行われていることがわかった(Lian et al. 2006; Zhou and Hogetsu 1999)。このことから、移動力の乏しいモモグロオオイエバエ幼虫が蛹化時に外生菌根菌の胞子を土壌中へ散布する散布者となる可能性が考えられた。
本研究は菌食性双翅目幼虫が宿主外生菌根菌の胞子散布に与える影響の評価を目的とし、1)土壌に潜るモモグロオオイエバエ幼虫による胞子散布の検証として、終齢幼虫の移動距離と消化管内容物の排泄場所の特定、2)本種幼虫の排泄した胞子を用いた発芽実験と無菌マツ幼樹への感染実験を行った。その結果、モモグロオオイエバエ幼虫は菌根形成力のある胞子を土壌中に排泄することが実証され、土壌中に散布された胞子は菌根形成に効果的であることから、モモグロオオイエバエ幼虫による土壌中への散布は動物を介しない重力散布よりも外生菌根菌種にとって菌根形成に有利と考えられた。