| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-071 (Poster presentation)
ツクシテンツキ Fimbristylis dichotoma (L.) Vahl subsp. podocarpa (Nees et Meyen) T. Koyamaは,九州地方の硫気荒原に生育するカヤツリグサ科植物である。前回の報告(第62回日本生態学会大会)では,本種がもう一つの優占種ススキよりも噴気孔に近い強酸性土壌(pH: 2-3)に純群落を形成することを報告した。また,2種の分布域の違いを規定する要因を明らかにするため,低pH条件下において,本種とススキの種子発芽と初期成長の比較を行ったが,2種間に明確な差異は認められなかった。
近年における土壌酸性度を重視した研究によれば,酸性土壌中の植物の生育阻害となる最も大きな因子は,酸性化に伴って溶解するアルミニウムと考えられている。土壌中に溶出したアルミニウムは,植物の細根の発生や伸長を抑制するほか,必須養分の吸収阻害等を引き起こすことが知られている。そこで今回は,ツクシテンツキとススキの発芽および初期成長に対するアルミニウムの影響を栽培実験により検討した。現地土壌の分析結果に基づき,アルミニウム濃度を4段階(0, 100, 200, 400 mg/L AlCl3)設定し,2種の発芽率と実生の重量を比較した。その結果,ツクシテンツキは発芽率・初期成長ともに影響を受けなかった。一方,ススキの発芽率はアルミニウムの影響を受けなかったが,初期成長については高アルミニウム区(200,400 mg/L AlCl3)において成長が抑制された。特に,地下部における成長抑制は著しかった。
これらの結果から,2種間におけるアルミニウム耐性の違いが硫気荒原における植生分布のパターンを決定づける1つの要因であることが示唆された。