| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-074 (Poster presentation)
乾燥による樹木枯死のメカニズムに関する仮説に関しては現在、脱水から生じる道管の水切れによる通水欠損仮説(Tyree & Sperry, 1988)と、気孔閉鎖による光合成産物(糖)減少による炭素欠乏仮説(McDowell, 2008)の二つが主要仮説として提唱されている。両仮説を検証するため、本研究では過去100年乾燥傾向にあると言われ(Oka et al., 2000)、乾燥による成木や稚樹の枯死がしばしば観察される小笠原にて、兄島の沿岸部に多く生育している先駆性樹種ウラジロエノキの稚樹を用いて、各個体のHuber value(幹断面積/総葉面積 比、以下HV)と、枝木部の通水性、枝や茎、幹、主根部の師部と木部における可溶性糖、デンプン量を測定した。測定に使う稚樹は幹直径が23mm前後のもののみとし、また、乾燥による衰退とともに個体が葉を落とし総葉面積が減少することから、ここではHVの値を個体の衰退度と仮定して用いた。その結果、HVの増加(すなわち衰退度の増加)とともに枝通水性の低下傾向は見られたが、糖欠乏は見られなかった。従って、炭素欠乏仮説よりも、通水欠損仮説をより強く支持するデータが得られた。しかしこれは、調査地が砂質土壌で夏期に乾燥が急激に進行するため、炭素欠乏よりも通水欠損が先行しているからかもしれない。今後さらに、可溶性糖とデンプンとの比率と、HVや枝通水性とに関連があるかを調べ、炭素と樹木衰退や枯死との関連性について、さらに詳細にデータを解析し両仮説の検証を進めていく。