| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-075 (Poster presentation)
関東地方の都市近郊では、二次林の管理放棄によってアズマネザサが優占し、林床植物の多様性が著しく低下している。一般に林床管理は林床植物の多様性や開花量を増加させるが、その要因が林床の光環境、植物の光合成能力、両者の季節変化、いずれなのかは不明である。本研究では、早野梅ヶ谷特別緑地保全地区(神奈川県川崎市)の落葉広葉樹林に、常緑樹の伐採やアズマネザサの刈取りを毎年夏に行う刈取り区と、刈り取りを行わない対照区を設置し、①林床の光合成有効放射(PAR)、②ヤブラン亜科の常緑草本3種(ヤブラン、ジャノヒゲ、オオバジャノヒゲ)の個体数、葉数、花序形成率(花序形成個体数/個体数)、結果個体率(結果個体数/花序形成個体数)、③対象種とした3種の光合成能力を調査した。さらに、林床のPARとそれぞれの種の光-光合成曲線から刈り取り区に生育する個体と対照区に生育する個体の純光合成量の季節変化を推定した。
解析の結果、刈り取りによって林床のPARは増加し、特に冬季の増加が顕著であった。また、刈り取り区では、対象としたいずれの種も葉数、花序形成率が有意に増加し、最大光合成速度は刈り取り区の個体の方が高くなる傾向が示された。純光合成量の推定値は、林冠閉鎖期(4~9月)は両区画で顕著な差は認められなかったが、落葉期(10~3月)は刈り取り区が対照区を顕著に上回った。さらに、10月に確認された純光合成量の差異は植物の光合成能力の変化、2月に確認された差異は林床の光環境の変化に起因するものと推察された。以上の結果から、アズマネザサの刈り取り管理は林床の光環境と植物の光合成能力の双方を変化させるが、そのバランスは季節によって異なることが示唆された。