| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-076 (Poster presentation)
遅延蛍光の測定による4種の蘚類の乾燥耐性の評価
著者 家倉凌、今西純一
ヒートアイランド現象の緩和策、また省エネルギー策として行われる屋上・壁面緑化の取り組みのひとつとして、蘚苔類を用いた「コケ緑化」が注目されているが、現在その中で使用される蘚苔類はほぼスナゴケとハイゴケの2種に限られている。蘚苔類は、都市環境の人工基盤においても高い多様性をもって生息することが確認されていることから、屋上・壁面緑化に際しても既往の研究で使用される2種よりも適した種が存在する可能性がある。そこで都市環境ストレスに耐えうる種を選定するための実験を行った。
実験では都市環境ストレスとして乾燥を設定し、乾燥によって変化する光合成活性を遅延蛍光の測定により評価した。実験には、コケ緑化に使用例があるスナゴケ(Rhacomitrium canescens Bird.)とハイゴケ(Hypnum plumaeforme Wils)、日本庭園で利用されることが多いオオシッポゴケ(Dicranum nipponense Besch.)、世界中に分布する高い適応力を持つ種として知られるギンゴケ(Bryum argenteum Hedw.)の4種を使用した。遅延蛍光による評価方法は、従来の緑被率で判断する方法と比べて短期間で行えるため簡便で、ストレスに対する即時的な応答を測定できるという利点がある。
実験の結果、乾燥によって光合成活性が低下した後に再び潅水することによって光合成活性をほぼ完全に回復させたのはギンゴケのみだった。このことからギンゴケはほかの3種の蘚類と比べて高い乾燥耐性を有していると言える。この乾燥耐性は、ギンゴケの形態的特徴、分布と生息環境、光合成系の防御機構の知見からも裏付けられる。