| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-077 (Poster presentation)
植物形質の研究は,地上部器官の葉を対象に多く行われてきた.例えば,Specific Leaf Area(SLA[cm2/g])は光獲得に関係する形質であるが,標高が高くなるにつれ小さくなることが知られている.一方,地下部器官の形質に関する知見は未だ少ないが,根のSpecific Root Length(SRL[m/g]) は地下部における養水分獲得に関係する形質であり,植物の資源利用戦略を明らかにする上で重要な要素である.本研究では,標高傾度に対する葉と根の形質の変化と,これら形質の関係性を検証する.
北海道羅臼岳の標高50, 400, 600, 1000mでそれぞれ優占する8,8,6,5樹種を対象とし,葉と根の先端部分である1次根を採集し,SLA,SRL等の形質データを得た.各標高の群集の形質値として,各種の平均値とその値を各種の胸高断面積で重みづけしたCommunity Weighted Mean(CWM)を使用した.
種の形質平均値は,SLAでは標高間で差が見られなかったが,SRLでは標高が高くなると増加した.各形質のCWMは,SLAでは標高が高くなると減少し,SRLでは種の平均値よりも標高傾度に沿った増加傾向が強くなった.SLAの標高傾度における変化より,葉は標高が高くなると構造にコストをかけていると推測される.一方SRLの変化は,根は標高が高くなるにつれ養水分獲得効率の高い形態に変化することを示唆している.またSLAとSRLの間には相関がみられなかった.資源利用戦略の面から植物の各形質の変化は同調すると思われたが,地上部と地下部での環境制限の違いが反映され,異なる傾向を示したと考えられる.本発表では他の形質や形質値の変動幅の解析を通して,標高傾度に沿った葉と根の形質の変化を,群集組成の変化や種間・種内における変異を考察する.