| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-083 (Poster presentation)
近年、日本全国の二次林でナラ枯れが発生し大きな問題となっている。ナラ枯れはカシノナガキクイムシが伝搬する病原菌によって引き起こされる。通常カシノナガキクイムシによる大量穿孔(MA:マスアタック)が起こると、病原菌による通水阻害により罹患木は枯死するとされているが、実際には生残する個体も存在する。ナラ枯れによる通水阻害について、菌接種木を用いた事後的な観察はあるが、野外罹患木でのMA前後を通じた通水阻害の変化を実測した例はなく、枯死木と生残木の間でのMAによる通水阻害進行にどのような違いがあるのか明らかでない。そこでMA被害木の樹液流速をHeat ratio method (HRM)を用い連続測定し、通水阻害進行の違いについて考察を行った。
HRMは低速域でも観測可能な樹液流速測定法であり、通水阻害が起きているナラ枯れ罹患木に適している。樹幹内を加熱し、それによる温度変化を測定することで樹液流速を推定するものであるが、実際に測定される温度には日射等による幹温度の変化の影響が含まれてしまう。ヒーターによる純粋な温度変化のみを得る手法について、いまだ十分な検討が行われておらず本研究ではまず樹液流速装置を自作し、センサー温度の生データから解析することでこれについて検討した。その結果、日射等による温度変化はヒーターによる温度変化に大きな影響を及ぼすため、解析による影響の排除が重要であることが示唆され、これを踏まえて京都府南部の山城試験地に生育するコナラを用い、MA前後を通じ樹液流速測定を実施した。
MA後、通水阻害の進行により樹液流速は徐々に低下したが、この変化には個体差がみられた。またMA下でも木部の一部は通水しており、これらが罹患木の生死に影響を与えていると考えられる。