| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-095 (Poster presentation)
針葉樹では乾燥ストレスにより生じた仮道管の空洞化に伴う木部通水機能の損失は不可逆的であると考えられてきた。しかし、壁孔壁の位置の移動に伴い壁孔の通水抵抗が可逆的に変化することで木部の通水機能も変化しうることから、特に水資源の乏しい乾燥地に生育する針葉樹では、乾燥条件下で仮道管が水を保持したまま壁孔の通水抵抗の増加により木部通水機能が低下しているかもしれない。本研究では、中国半乾燥地の代表的な緑化植物である Juniperus sabinaを用い、異なる乾燥強度下において木部の水分通導度に仮道管の空洞化および壁孔壁の位置が与える影響について検討した。本種は匍匐型の生活形を有し、主根に加えて不定根を多く持つ。不定根からの吸水を制御し異なる乾燥強度にさらしたポット苗木4個体を用いて、木部の水ポテンシャルおよび水分通導度(Ks)の測定、サフラニンによる通導部位の染色、cryo-SEMによる木部内の水分布と壁孔壁の観察を行った。その結果、湿潤時と軽度の乾燥強度下ではKsが高い一方で、中度と強度の乾燥強度下ではほぼ0と極めて低かった。湿潤時、軽度の乾燥強度下の仮道管は全て水で満たされていたが、強度の乾燥強度下においてはほぼ全ての仮道管が空洞化していた。中度の乾燥強度下では、約半数の仮道管は水で満たされていた。水で満たされた仮道管の壁孔のうち、空洞化した仮道管との間だけでなく、水で満たされた仮道管との間の壁孔でも壁孔壁の移動による壁孔閉鎖が観察された。これらの結果は、乾燥の進行に伴う通水機能の低下には、仮道管の空洞化に加えて、壁孔の通水抵抗の増加が関与する可能性を示唆する。