| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-098 (Poster presentation)
双子葉類の葉は,維管束鞘延長部(BSEs)を持つ葉(異圧葉)と持たない葉(等圧葉)に二分される.異圧葉では葉の内部空間がBSEsによって数多くのコンパートメントに区切られるのに対し,等圧葉では葉内部の空間は繋がっている.この違いのために異圧葉と等圧葉では生理や生態特性が大きく異なるが,BSEsを定量的に評価する指標がなかったため,BSEsと生理特性との関係は不明であった.さらに,BSEsは葉の力学的安定性に貢献するという仮説があるが,定量的に検証した例はない.そこで,本研究では,BSEsによる葉内部のコンパートメント化を定量化し,葉の力学や生理特性との関係性を評価することを目的にした.
冷温帯林において,葉の生活型・葉内部のコンパートメント化の度合いが異なる15樹種を選出した.それぞれについて,コンパートメント化の指標として,BSEsの密度(D :単位面積辺りのBSEsの長さ)を算出し,葉身の力学特性(強度,ヤング率),葉の生理特性(気孔コンダクタンス,葉の耐乾燥性,日中の水ストレスなど),葉の構造・化学特性との関係性を評価した.
その結果,種間でDは葉の力学,構造,化学特性とは独立であった.対して,Dは気孔コンダクタンスと正の相関を,原形質分離時の水ポテンシャル,日中の最低水ポテンシャル,葉の炭素安定同位体比と負の相関を示した.
葉のBSEs によるコンパートメント化は,葉の力学,構造,化学特性とは独立に,葉の生理機能を支配することが示唆された.これらの関係性は,従来の異圧葉と等圧葉との生理・生態的な違いを裏付けるものである.さらに,葉のコンパートメント化が,樹種の生理・生態特性を評価する上で,簡便で有用な指標であることが示された.