| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-206 (Poster presentation)
カキやサンゴに代表される、他種の生息場となる生物を基盤種という。それらは一般に複雑な体構造により隠れ場や餌場として機能し、生息域の種組成や生物密度を決定する。根や骨格などの複雑な構造は基盤種の死後も残存するため、その機能も保持されると考えられるが、死んだ基盤種の重要性を説いた研究は少ない。岩礁潮間帯は熱帯から寒帯まで普遍的に存在する重要な海域であり、そこではカキやフジツボ、イガイなどの死後に殻を残す固着生物が基盤種となり得る。本研究では、岩礁潮間帯の底生動物群集を対象に、基盤種の死後、残存する殻の生息場としての重要性を検証した。
まず、基盤種に住み込む生物相を把握するため、固着生物の生存・死亡個体および岩盤上の生物相を比較した。その結果、カキの死亡個体(以下カキ殻)が最も利用頻度の高い生息場であり、そこにはカサガイ目が多く住み込んでいた。
次に、重要な生息場であるカキ殻が、カサガイ目にとって隠れ場あるいは餌場の機能をもつか検証した。生息場の機能に重要な構造的複雑性を、カキ、カキ殻、および岩礁上で比較した結果、カキ殻が最も複雑な構造をもっていた。隠れ場の機能は、肉食性巻貝のイボニシを用いた捕食実験により検証した。その結果、カキ殻を入れた処理区でカサガイ目の被食量が有意に少なかった。餌場の機能は、カサガイ目が摂食する微細藻類量を、カキ、カキ殻、および岩盤上での比較により検証した。その結果、カキ殻上の微細藻類量は、他の生息場と有意な差が見られなかった。よって、カキ殻はカサガイが選択的に住み込む餌場ではないが、その構造的複雑性が捕食を免れるための隠れ場としての機能を高めていることが推察された。
以上より、岩礁潮間帯では、構造的複雑性の高いカキ殻が主にカサガイに対する隠れ家として機能していることが明らかとなった。本研究で得られた結果は、見過ごされていた基盤種の死後の機能解明に寄与し、これまでの基盤種研究を見直す一助となる。