| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-015 (Poster presentation)

トドマツの種子・実生の動態と斜面地形上の位置

*嵜元道徳,柳本順,古田卓,岡部芳彦,勝山智憲,林大輔,山内隆之(京大フィールド研)

針広混交林における針葉樹の尾根部や斜面上部への偏り分布は、温帯性針葉樹を中心に、古くから知られ、メカニズム解明に向けた研究が成されてきている。しかし、その解明は未だ十分でなく不明点も少なくない。本研究では、そのメカニズムの更なる解明に向け、北海道東部の針広混交林において斜面上部への偏り分布を示すトドマツを対象に、種子から実生迄の動態と斜面地形上の位置による違いの有無、関与要因を調べた。

落下種子数は、成木の多寡に対応して、プロット(70m×160m)の尾根部から斜面上部、斜面下部へと順に有意に少なくなっていた。しかし、翌春の発生実生数は尾根部と斜面上部では差がなく、斜面下部だけが有意に少なくなっていた。実生の発生から5年間の生存率(カプラン・マイヤー法)は、斜面下部で高く、尾根部と斜面上部で低くなっていた。また、リスク比(比例ハザードモデル)は、斜面下部の1に対し、斜面上部が1.34、尾根部が1.36となっていた。一方、3つのサブプロット(30m四方)における微環境(下層光(地上0.5m)、礫質土被度、傾斜角度、ササ被度)は、礫質土被度、傾斜角度、ササ被度でプロット間差が認められた。すなわち、礫質土被度は斜面下部だけが有意に高く、傾斜角度は尾根部から斜面下部に向けて順に有意に大きくなり、ササ被度は尾根部と斜面上部では差がなく斜面下部より有意に大きくなっていた。

以上より、サイズの比較的小さいトドマツの実生は、礫質土が卓越し、ササ(丈は0.3m)が殆どない、トドマツの成木を欠く斜面下部において高い生存率になっていることが明らかとなり、当地の斜面地形上におけるトドマツの実生は成木の分布域から外れた傾斜が急な斜面下方で生き残り易くなっていることが推察された。


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