| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-020 (Poster presentation)
長野県上高地では梓川の氾濫原内に、ケショウヤナギやエゾヤナギなどのヤナギ類やハルニレ、カラマツなどが河畔林を形成している。これら河畔林は、梓川の洪水などによる攪乱の規模や頻度、洪水後の立地環境に応じた群落がパッチ状に分布しているとされる。しかし近年、上高地では梓川の護岸工事が進み、流路の固定化によって氾濫原の洪水頻度が減少していることが指摘されている。本研究は長野県上高地でも特に広く河畔林が成立している明神―徳沢間の左岸側の氾濫原内の河畔林の植生変化を、主に空中写真を用いて過去約70年間に渡り明らかにすることを目的とした。
約70年前、本氾濫原内には既に背の高い河畔林が成立していた。約40年前に梓川の流路に近い森林が破壊されたが、その範囲は限定的であり、現在までの間に大規模に河畔林が破壊されたことは無く、連続して森林が維持されていた。一方、氾濫原の上流側では当初ヤナギ類を中心とした森林が成立していたが、近年ヤナギ類にウラジロモミなどの針葉樹種が混交した森林に変化しつつあることが明らかになった。それに対し、下流側では約30年前以降、ヤナギ林内に林冠ギャップが数多く形成され始め、その数および個々のギャップ面積が拡大傾向にあり、林冠の連続性が失われつつあることが明らかになった。このような林冠が欠如した領域には高茎の草本が密生していることが現地にて確認された。氾濫原の中ほどには湧水地点が数多く存在しており、ヤナギ林後に成立する群落の違いに影響していると考えられる。