| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-024 (Poster presentation)

栃木県日光・足尾地域におけるイヌブナ林の種組成と分布

矢ヶ崎朋樹(IGES-JISE), 星直斗(栃木県博)

イヌブナFagus japonica Maxim.は日本のブナクラス域下部の自然林を代表する夏緑広葉樹である.そのイヌブナを主体とする森林群落(イヌブナ林)は,同じくブナクラス域自然林の代表的樹種であるブナFagus crenata Blumeの優占群落と比べると,まとまりや広がりに欠くことが多く,生育立地のかく乱(森林伐採や植林等)の影響もあって局所的に僅かながらに残存しているのが一般的である.栃木県西部の日光・足尾地域はイヌブナ林の既報告地の一つであるが,その記録は少なく,広域的な分布状況や群落組成の実態は定かでない.そこで,本研究は,当地域のイヌブナ林の生態的特性を明らかにするため,2015年9月から10月にかけてブラウン-ブランケ法に基づく植生調査を行った.この結果,均質でまとまりのある林分より15の植生調査資料を得た.これら資料をもとに植物社会学的な表操作を行った結果,全般にトウゴクミツバツツジ,ヤマツツジ等が高常在度で出現する他,部分的に種組成的なまとまりを見い出せることがわかった.このことから,これらの調査林分はヤマツツジ-イヌブナ群落にまとめられ,次の3つの下位単位が区分された.ブナ下位単位は,ブナ,ミヤコザサ等により区分され,侵食や斜面崩壊の進んでいない安定した山地緩斜面の林分が含まれた.特定の区分種をもたない典型下位単位とコナラ,ガマズミ等により区分されたコナラ下位単位は山地渓谷斜面(遷急線・侵食前線直上)の林分を含んでいた.生育立地の平均海抜については,高い方から順に,ブナ下位単位>典型下位単位>コナラ下位単位の傾向が見られた.林分の空間的な広がりは,典型及びコナラ下位単位で比較的狭く断片的であった.この2つの下位単位では,林分周囲で崩壊地,渓流,人工林と接していることが多く,そのことが林分の空間的発達の妨げになっていると推察された.


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