| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-028 (Poster presentation)
東日本大震災(2011年3月11日)による大津波から5シーズンが経過し,環境攪乱の影響を強く受けた沿岸地域の植生は,残存個体の再生あるいは先駆種の侵入による再生初期段階から新たな段階へと変化したと考えられる。特に水田を主体とする低地の耕作地では,残留塩分が大きく減少し,一般に見られる耕地雑草群落が発達している場合が多い。そこで,震災後の植生動態を明らかにするために,大津波の被災を受け,放棄された耕作地において植生調査を実施した。
調査地は岩手県宮古市赤前で,大津波被災後の2年目(2012年)に優占種が異なる草本群落において,複数の方形区(2×2m)を設置し,出現種とその優占度を記録した。その後,3年目(2013年)と5年目(2015年)に同一場所での植生調査を行った。
調査地は大部分が水田であったが,大津波以前から放棄されて成立した群落も含まれた。大津波被災後2年目に見られた群落毎に5年目の群落と出現種数をまとめると次のようであった。オギ群落とヨシ群落では相観に変化はないが,出現種数は大きく減少した(32.5種→10.0種→5.3種)。ヨモギ群落はヤマアワ群落あるいはオオアワダチソウ群落に遷移し,出現種数は減少した(30.8→17.0→10.5)。イヌビエ群落はハマアカザなどが出現する塩性地とそれらが出現しない場所とも,ほぼヤマアワ群落に遷移し,出現種数は緩やかに減少した(塩性地で32.0→22.3→12.3)。イヌビエ群落のうち,3年目以降,定期的な草刈りが実施されている場所では出現種数は増加した(12.0→12.5→25.5)。
これらの結果から,大津波による攪乱を受けた水田では,以前からの放棄地では群落の相観に変化はないが,1年目にイヌビエ群落が成立した場所では5年目にヤマアワ群落などの多年草群落に遷移した。いずれも出現種数は大きく減少した。