| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-031 (Poster presentation)

中部地域における複数の森林タイプに対する林床シダ植物の種構成の関係

*大杉周(信州大・総工),本間航介(新潟大・フィールド科学セ),佐藤利幸 (信州大・理)

森林植生学で上層木と下層植生の関係は重要であり、林冠層の種組成と森林の履歴から森林タイプに区分して群集を表現する。しかし現在の日本は、無秩序な造林と管理放棄によって下層植生の荒廃と空白化を引き起こしている。そのため、二次遷移に則った植物種の侵入による、新たな下層植生の観察が必要である。この侵入する種でシダ植物に注目した。シダ植物は風媒による広域散布で素早く侵入し、種子より多く漂着できるが、定着までに外部環境に左右されるため、観察には最適である。しかし、森林内でシダ植物の分布差が生じる要因の研究は未だ少なく、土壌のPHや攪乱などの非生物的要因に求める場合が多い(深山・後藤2000、Costa et al.2005)。本研究では生物間相互作用の観察を目的とし、上層木がシダ植物に与える影響を調査した。

最初に森林タイプとシダ植物の対応関係を調べた。新潟県、長野県、静岡県からそれぞれ2~3箇所で、一般的な「スギ人工林」と周辺の森林タイプから、胸行直径40cm以上の高木の樹冠下ごとにシダ植物の種と出現頻度を記録した。次にスギ林の林床で低木とシダ植物の関係を調査した。人為的撹乱の多いスギ人工林と皆無のスギ原生林で、50m×50mプロット内で低木の投影図とシダ植物の分布図を作成し照合した。

結果は、全地域相でスギ人工林における出現頻度が最大となった。また、スギ人工林は種数が多く、低木下にいない個体が多かった。スギ原生林は種数は少ないが個体数が倍以上となり、低木下にいる個体が多かった。また、シダ植物を被陰する低木の過半数は落葉低木であった。

以上のことから、スギ人工林は多くのシダ植物の生息場所となり、更にスギ人工林のシダ植物の種数には森林施業による低木の排除が関係している可能性が示唆された。


日本生態学会