| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-036 (Poster presentation)
【研究背景】 箱根・函南原生林は,標高傾度(気温傾度)に沿って常緑広葉樹林帯から落葉広葉樹林帯へ推移する植生帯境界にあたる.これまでの研究から,常緑広葉樹の実生の定着率は標高傾度に沿った変化がみられない一方で,分布上限で常緑広葉樹の個体サイズが低下することが明らかとなった.これらのことは,常緑広葉樹林と落葉広葉樹林の境界の形成には分布上限における常緑広葉樹の生長抑制が関わっていることを示唆している.
【目的】 本研究では,植生帯境界域における樹木の生長に着目し,函南原生林の常緑広葉樹林での優占種を対象に幹生長量の標高変化を明らかにした.また,年輪気候学の手法を用いて優占種の生長と気候条件との関連性を検討し,常緑-落葉広葉樹林の植生帯境界の決定機構を考察した.
【調査方法】 調査は箱根外輪山の南西斜面に位置する函南原生林(標高550m~850m)で行った.600m,700m,および800mの各標高において,生長錘を用いてアカガシとブナの15個体から各2本の年輪コアを採取した.気候条件との関連性について検討するため,年輪幅を0.001mmの精度で読み取り,三島の気象観測データと合わせて解析した.
【結果と考察】 アカガシとブナ共に幹生長と気候条件とには良い対応関係がみられ,特にアカガシの気候条件に対する生長の応答は標高毎に異なっていた.アカガシの分布上限では5月と6月の気温と顕著な正の相関関係を示しており,生長期間初期の気温が植生帯境界の形成に重要な役割を果たしていることが推察された.これらの結果は,分布上限において常緑広葉樹の生長が抑制されて,標高傾度に沿って個体サイズが低下し,常緑広葉樹林と落葉広葉樹林との植生帯境界域が形成されていると考えられた.