| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-038 (Poster presentation)
本州日本海側には中国地方から東北地方まで広くスギ天然林が分布している。これまで、これらのスギ林の変遷については、最終氷期最盛期に若狭湾周辺に逃避していた集団を起点として晩氷期以降に移動拡大して成立した、という塚田(1980)の説が一般的であった。しかし、見積もられた移動速度が大きすぎることなどから、複数の逃避地を想定してそれぞれを起点に拡大した、とする考えも示されている。こうした背景から、演者らがこれまでにおこなってきた秋田スギの花粉分析地点を中心に文献調査によるデータを加え、東北地方北部におけるスギの拡大開始時期及びそれ以前のスギ花粉の出現率の変化について検討し、この地域のスギ分布拡大過程について考察した。塚田は、スギの東北地方北部への移動時期を約3000~4000年前としているが、本報告の調査によるスギ拡大時期(スギ花粉が概ね5%程度以上の出現率となる時期)も、多くの地点でその範囲にあった。しかし、スギ拡大以前の時代にも低率ながらスギが長期間連続して出現する地点が複数認められた。このことは、スギの分布変遷は若狭湾単一の起点によるのではなく、各地に点在したスギ逃避地あるいは他の群落に埋もれて生育していた潜在的な集団からの拡大により、現在の天然スギ群落が形成されてきたことを示唆している。