| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-051 (Poster presentation)

東日本大震災の津波が東北地方沿岸域のオオクグ個体群の遺伝的構造に及ぼした影響

*大林夏湖(東大・広域システム)・程木義邦(京大・生態研)・今藤夏子(国環研)・國井秀伸(島根大・汽水研)・嶋田正和(東大・広域システム)

攪乱は動植物の個体群動態に影響を及ぼす動的プロセスで、個体群内・個体群間の遺伝的構造の変化をもたらすため、生物多様性を維持するメカニズムの一つと考えられている。攪乱が動植物の遺伝的構造に及ぼした影響を調べるには、攪乱前後の遺伝的構造を比較することが重要となる。演者らは2008年に西日本および北日本の河川干潮域砂州に生育するカヤツリグサ科スゲ属のオオクグ個体群を踏査し、SSRマーカーを用いて遺伝的構造を解析し、本州では3クラスターに分類されることを明らかにした。2011年の東日本大震災で津波による被害を受けた東北地方沿岸域もオオクグ生息分布域が含まれるので、攪乱(津波)が遺伝的構造に及ぼした影響を調べるため、2013,2014年に2008年採取地点に赴き個体群の現状把握とSSR解析を行った。コントロールとして津波の影響を受けなかった天ケ森個体群(青森県小川原湖)を採取し、比較を行った。ほとんどの生息域で地形改変によって個体群が消失していたが、新規に形成された砂州や津波によって堤防内に持ち込まれた砂地に新規局所個体群が確認された。天ケ森個体群は、津波前後で遺伝的構造にほぼ変化がないのに対し、東北地方沿岸域の2008年採取地点と同一地域では個体群内平均アリル数は津波後の方が多く、各地点間Fstは津波後の方が低くなった。よって、オオクグにとっては、津波による攪乱は中規模攪乱の範囲だったと推定され、地点間の遺伝子流動が促進された結果、個体群内の遺伝的多様性が増加したと考えられる。


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