| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-071 (Poster presentation)
植物にとって気孔は,陸上で暮らしていくために不可欠である。しかし水陸両生の水草は,空気中では気孔を持つ葉を形成するが,水中では気孔のない葉をつける。また,完全な沈水生の水草は,そのような異形葉を形成せず,気孔も分化しない。沈水生の水草は気孔を形成する能力をもっているのか?私たちは,ヒルムシロ科の植物,ササバモ(水陸両生)とヒロハノエビモ(沈水生)の栽培実験を行い,この問題について検討した。環境ストレスホルモン,アブシシン酸(ABA)水溶液中で栽培すると,両種はともに気孔を形成した。さらに両種は,ヒルムシロ科に近縁な海草(アマモ)では失われている気孔形成に重要な制御因子を共に保持していた。ところが,生体内でABAが合成される塩ストレス条件(1/3希釈海水)や水ストレス条件(20 % polyethylene glycol)で栽培すると,ササバモだけに気孔が形成され,ヒロハノエビモには気孔形成が誘導されなかった。ABA合成に重要な酵素NCED遺伝子の発現解析より,種間のこのような気孔形成の差異は,種に特徴的な水ストレス応答により生み出されると推定された。
水陸両生のササバモは,野外では渇水時に経験する水ストレスに応答し気孔を形成し,陸上で生育する。一方,沈水生のヒロハノエビモは,気孔を形成する潜在能力を保持しつつも,水ストレス応答を変化させることで,ササバモのような表現型可塑性を失い,陸上ではなく海水の影響がある環境へ生育場所を広げたと考えられる。