| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-086 (Poster presentation)
アブラナ科草本 (Brassicaceae) とシロチョウ亜科蝶類 (Pierinae) の、グルコシノレート(Glucosinolate: GLS)を介した相互作用系を用いて、生物多様性形成過程を説明する仮説のひとつである植物-植食者共進化仮説の、具体的なメカニズムを検証した。本研究室における先行研究により、アブラナ科が合成可能なGLSの種類は系統の制約を受けること、またGLSの側鎖がシロチョウの選好性を決定することが示唆されている。そこで本研究では、次世代シーケンスによりGLS合成遺伝子の保有様式および配列情報を明らかにし、GLS合成機構の進化過程を解明することを目的とした。野外由来のアブラナ科草本8種からトランスクリプトームを取得、約200万~2億リードから約5000~15万コンティグを生成し、ホモロジー検索を行ったところ、約3千~3万コンティグで相同な配列が見つかった。この配列に摂食前後のリードをマッピングし、GLS合成に関連する43遺伝子について発現量を定量した。多変量解析により種間の遺伝子発現プロファイルを俯瞰したところ、一部の遺伝子が種ごとに特徴的な発現を示した。各種の発現プロファイルは、系統関係を反映したものでは無かった。また摂食に伴うGLS合成遺伝子の発現量は必ずしも上昇しているわけではなかった。さらに、各遺伝子をGLS合成経路内での役割ごとに分類し、分類間での発現量の変異と配列の保存性を比較したところ、GLSの側鎖修飾遺伝子でコア構造合成遺伝子よりも発現量の変異がより大きく、また、配列の保存性が低いことが示された。特にGLSの側鎖の多様性に関わる合成段階を担う遺伝子群で、種間で発現量に差があり、その配列の保存性が低いという結果は、種に特徴的なGLSプロファイルが、各種の保有する側鎖修飾遺伝子の違いによってもたらされるという可能性を示唆している。