| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-090 (Poster presentation)
ユリ科の大型多年草オオウバユリ(Cardiocrinum cordatum var. glehnii)は主に北日本の日本海側に分布し、関東以西に分布する基本種のウバユリよりも大型化している。この現象の成因に関して、次の2つの仮説を立てた。(1)多雪な日本海側では、春先の融雪水の影響によって土壌と葉の間の水ポテンシャル差が大きくなり、葉面積当たりの蒸散速度が高まるとともに、連動して光合成速度が高まる。(2)展葉期に豊富な融雪水が利用できるため、SLA(比葉面積)が増大し、葉重量当たりの蒸散速度と光合成速度が高まる。こうした光合成速度の高まりが個体サイズの大型化に寄与していると考えられる。
新潟県上越地域では、オオウバユリの集団間に個体サイズ変異が見られる。そこで、2014年に地域内で特に個体サイズが大きい集団(金谷山:平均花茎高186 cm)と小さい集団(五智:同74 cm)を選び、調査対象とした。過去30年間の年最大積雪量は金谷山で五智よりも1.6倍多かった(気象庁 2010)。2014年の融雪日は、どちらも3月中旬であった。4月下旬に両集団にて葉の水ポテンシャルと光合成・蒸散速度、気孔コンダクタンスの日変化を測定し、上記仮説を検証した。
金谷山では五智に比べて土壌と葉の間の水ポテンシャル差が大きいとは言えなかった。一方、金谷山の個体は、土壌から葉への通水コンダクタンスが高く、葉面積ベースで五智の個体よりも高い蒸散速度を示したが、光合成速度は五智と同等の値となった。金谷山では、晴れた日の午後に気孔が閉じ気味となり、蒸散・光合成速度が抑制された。また、予想に反して、金谷山よりも五智の方が高いSLAを示し、葉重量当たりの光合成速度が金谷山の個体において卓越することはなかった。