| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-092 (Poster presentation)
優占する樹木の大量枯死は森林の生態系機能に多大な影響を与える。なかでも、現在急速な広がりを見せているナラ枯れは、日本の多くの地域で優占するコナラやアラカシ等の大量枯死を引き起こすため、日本の森林に特に大きな影響を及ぼす攪乱イベントである。ナラ枯れはカシノナガキクイムシの樹体内への侵入に始まり、様々なプロセスの結果として道管のエンボリズムが起こることにより枯死に至ることが樹病学の立場からわかっている。これらの研究の多くは幹の罹患部位周辺の組織を観察しているが、罹患部位の応答だけでなく樹木全体の生理機能がカシノナガキクイムシの侵入によりどのように変化するのかについて調べる必要がある。本研究では山城試験地に生育するコナラ成木を用いて自動で光合成速度・幹呼吸速度・樹液流速度を連続測定することによってカシノナガキクイムシの大量侵入による樹勢の低下前後における樹木の水・炭素利用の変化を示し、同時に健全コナラ木との比較をおこなった。
被害木ではカシノナガキクイムシ大量侵入の直後に樹液流速に次いで光合成速度が低下し、葉の褐変脱落がみられた。大量侵入痕よりも5m以上上部に位置し、罹患部位とみなせない幹上部で測定された呼吸速度は、大量侵入直後は急激に低下したが、2か月後には急激に上昇し、健全木の幹呼吸速度を大きく上回った。この呼吸速度の上昇は何らかの原因で侵入した菌による分解呼吸によるものとみられ、実際に材の構造が変質して脆くなっていることが観察された。カシノナガキクイムシ大量侵入後は気孔閉鎖による蒸散抑制が起こる前に光合成機能の喪失・葉の褐変が起こり、さらに死のステージに入ると材の腐朽が急速に進行すると考えられる。