| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-097 (Poster presentation)
高木の樹冠内では光・水分環境が大きく異なり、環境変異に対して葉は形態的順化反応を示し、個体の資源獲得能力を規定する。しかし、老大木の樹冠上部では順化反応が制限される場合もある。本研究では、100年生ヒノキ(Chamaecyparis obtsusa)を対象に、樹冠内の高さによって異なる光・水分環境への順化反応を明らかにする事を目的とした。調査対象木は比叡山延暦寺所有の100年生ヒノキ造林地に植栽されたヒノキ3個体である。樹冠最上部と最下部から採取した葉を用い、形態特性として葉面積、葉乾重、分岐数を、生理特性として最大光合成速度、萎れ点の水ポテンシャル、飽水時の浸透圧、細胞の体積弾性率、および水分通導度を測定した。また、葉内組織の生理機能への関与を調べるため、葉の横断切片を作成し、組織観察を行った。
明るい樹冠上部の葉は、樹冠下部より比葉重が大きく、葉面積当たりの分岐数が多く、最大光合成速度が高かった。また、樹冠上部の葉は樹冠下部より萎れ点の水ポテンシャルが低く、葉面積当たりの含水量が多い傾向が見られた。さらに、樹冠上部の葉は樹冠下部より細胞の体積弾性率や飽水時の浸透圧が低かった。水分通導度は樹冠内で一定であった。これらのことから、ヒノキ樹冠上部は光資源が豊富で、葉は光資源の獲得に有利な形態であり、硬い細胞壁によって吸水力が向上され、更に水分通導度が維持される事で水ストレスに順化していると考えられる。葉の組織観察では、transfusion tissueの断面積が樹冠上部で樹冠下部より大きい傾向が見られた。transfusion tissueは維管束の周囲に存在し、木部から葉肉組織への通水機能や貯水機能があると報告されている。ヒノキにおいてもtransfusion tissueが樹冠上部において通水維持に寄与している可能性が示唆された。