| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-099 (Poster presentation)
春における植物の開芽時期は、植物個体の生産性に大きく影響する。日本は南北に長く、緯度によって気候が大きく異なる。このような気候条件に対応して、同一種でも開芽時期が異なることが知られている。異なる地域に生育する同一種個体間において、開芽時期と気温(有効積算温度や冬の低温頻度)や日長の関係の遺伝的な分化の度合いを明らかにすることは、今後の温暖化が開芽時期に与える影響を予測するうえで不可欠である。
全国の大学演習林や林業機関によって1990-91年にブナの産地別相互移植フェノロジー調査がおこなわれ(渡邉・芝野1996)、この後も一部の機関では移植したブナのフェノロジー調査が行われてきた。我々はこれらの研究をまとめることで、由来(種子の産地)と生育地(移植実験サイト)によって開芽時期がどのように異なるのか、気温および日長との関係を調べた。
この結果、同じ由来でも北の生育地ほど開芽時期が遅く、同じ生育地では北由来のブナほど開芽時期が早い傾向が見られた。また、北の生育地ほど由来間の開芽時期の差が小さくなった。さらに、同じ由来でも開芽時期と有効積算温度(2月1日以降、>5˚C)の関係は一定ではなく、年平均気温10度以下の生育地ではほぼ一定の有効積算温度で開芽していたものの、それより南では有効積算温度がより大きくなった。低温頻度と有効積算温度の関係をみると、低温頻度が同じときには北由来の個体ほど有効積算温度が低くなる傾向が見られた。発表ではさらに日長についての解析も加えてブナの開芽時期の遺伝的な分化について論じる。