| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-101 (Poster presentation)
北方林に生育する常緑針葉樹は特に冬季の低温環境に適応していると考えられる。しかし冬季における温度の変化が植物の光合成能力に及ぼす影響は明らかでない。本研究では、アカエゾマツ実生苗を対象として人工気象器内で冬季を想定した温度変化の下で光-光合成曲線を取得した。そこから推定した光合成能力について、アカエゾマツの冬季の光合成能力は気温の低下に伴って低下し気温の上昇に伴って上昇するが、その上昇は光阻害のため緩やかである、という仮説を検証することを目的とした。
人工気象器内で気温を1、-5、-10、-15、-10、-5、1℃の順序で遷移させた。この間、器内の光強度及び日照時間は一定に保った。それぞれの気温段階で5日以上アカエゾマツ実生苗を馴化させた後、葉に当てる光条件を段階的に変化させながら光合成速度を測定した。ただし、測定に用いたLI-6400XT(Li-Cor社製)の測定可能温度を考慮し、測定24時間前に1℃の環境に対象個体を移動させ、1℃にて測定を行った。また光合成速度測定後、20分間暗条件で馴致し、光阻害の指標であるFv/Fmを測定した。光合成有効放射量と光合成速度の関係に対して、光-光合成曲線の当てはめを行った。得られた最大光合成速度と見かけの量子収率、凸度、暗呼吸速度のパラメータを設定気温間で比較した。
結果、最大光合成速度は気温低下と共に低下したが、気温上昇時にはほぼ上昇せず、気温を1℃まで上昇させた時に多少の回復が見られた。またFv/Fmも同様の遷移を示した。一方で見かけの量子収率、凸度、暗呼吸速度は設定気温間で有意な差は見られなかった。これにより、光合成能力は温度の影響を受けるが、温度が上昇する際には低温下で起こった阻害が継続していることが示唆され、仮説は支持された。