| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-110 (Poster presentation)
ヒバは日本産の遷移後期樹種の中でも最も耐陰性が高いと考えられている樹種の一つである。多くの樹種では,光が不十分な環境下では,成長に伴って増加する非同化部による消費を,光合成産物で補償できなくなる限界があり,個体サイズの増加に伴い,より強い光が必要になると考えられる。しかし,ヒバは限界に達する前に伏条により,発根部より後方の非同化部から独立することで,非同化部の割合を減少させ,個体の維持をはかることができる可能性がある(元の幹は枯れても構わない)。また複数の枝で伏条することも多く,ラメット単位では数の増加をはかる,つまり無性繁殖を行って水平的に空間を占有している可能性もある。本研究では,これら二つの可能性を明らかにすることを目的とし,約80 年前時点でブナ林冠下にヒバの稚樹が存在した場所で,現在でもその状態が維持されている場所に試験地を設定した。ここで,個体識別のためのDNA分析(EST-SSR 分析)を行い,各個体の幹数や空間的な広がりなどを調べた。その結果,多くの個体が複数幹で構成されており,80本以上の幹によって,10m以上の空間が占められている場合もあった。野外観察により,現在生存している幹が,すでに枯死した幹の枝として繋がっていた形跡が見られる個体も確認された。一方で,5個体について各1幹の年輪解析を行ったところ,地際部の樹齢が52年から90年であったため,伏条枝が独立した後に,元の幹も比較的長期にわたって生存している可能性があった。これらの結果から,ヒバが伏条によって非同化器官を切り捨てることが,どの程度個体の維持に貢献するのかは不明であったが,少なくともヒバが高木種でありながら,伏条によって低木状に幹数を増加し,水平的に空間を占有していることが明らかになった。