| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-111 (Poster presentation)
耐陰性の強い針葉樹であるヒバについて,長期間にわたる稚樹の形態的な順化応答を光環境が10年間以上大きく変化していない林床において調べた。ヒバ稚樹の樹形は,大ギャップ下の明るい環境下では縦長の円錐形を,閉鎖林冠下では横長で樹冠が浅いボウル形を呈した。ボウル形の樹冠は,幹の付根から水平に伸びた枝が先端付近では垂直上方に伸長し,枝頂端が主軸頂端より高くなることにより形成されていた。ボウル形樹冠による葉の配置は,自己被陰を減らしつつ,葉を新たに配置するための幹の伸長も抑制できると考えられる。すなわち,非同化部の増加を最小限にして個体の維持コストを抑制できる可能性がある。
ヒバ稚樹の枝の枯れ上がりは強い被陰下でのみ見られた。枝の長さは樹冠下部に位置する枝ほど長かった。また,樹冠下部の枝には,主軸頂端と同様の放射状に点対称な葉の配置をもつ頂端(芯)がしばしば生じた。芯を持つ枝の長さは持たない枝より大きかったが,枝の伸長速度は樹冠上部に位置し芯を持たない枝で最大であった。すなわち,芯を持つ枝が樹冠の拡張に与える影響は小さかった。しかし,樹冠下部の枝は雪圧によって接地発根し,伏条繁殖することによってラメット数の増加に寄与していた。伏条繁殖により生じたラメットの意義は,(1)物理的損傷に対して遺伝子の存続の可能性を高める,(2)個体サイズが小さく非同化部の割合も小さいことで耐陰性が向上する,(3)同一ラメットの若齢化・活性化に寄与する,などが考えられる。以上のことから,ヒバ稚樹の枝の形態ならびに無性繁殖の様式は,暗所における稚樹の生存に役立っていることが示唆された。