| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-114 (Poster presentation)

雌雄異株樹種ナギの雌雄判別DNAマーカーの開発

*名波哲,神丸千明(大阪市立大学・理),永野惇(龍谷大学・農,JST さきがけ,京都大学生態学研究センター),手塚 あゆみ(龍谷大学・農),伊東明(大阪市立大学・理)

雌雄異株植物で見られる成長や生存率、成熟する体サイズなどの性差は、雌雄の繁殖コストの差に起因すると説明される。これが正しければ、性差は繁殖可能な生活史段階に達してから生じるはずであるが、検証された例は少ない。また集団中の見かけの性比の偏りや雌雄の空間分布の分離が観察されることもある。その成因を考える際には、種子や実生の段階では偏りはないことが前提となっているが、推測の域を出ない。このような未解決の問いが残されている理由は、未開花個体の雌雄判別の難しさにある。

奈良県御蓋山では、優占種であるナギの生活史特性の性差や性比、雌雄の空間分布の偏りが観察されている。それらの成因にせまるため、雌雄判別のためのDNAマーカーの開発を試みた。まず、オス7個体、メス6個体、計13個体のナギについて、RADシーケンシングによりDNAの塩基配列情報を収集した。これにより100塩基からなるリードの配列情報が、1個体につき19万~40万、平均25万リードについて得られた。この中には、全てのオスから見つかるがメスからは見つからないリードが56本あった。その中の一部のリードについてプライマーを設計し、雌雄各24個体、計48個体の成熟木のDNAサンプルを用いてPCRを行った。その結果、2組のプライマーがオスのみで断片を増幅させたため、ナギの雌雄判別マーカーとした。続いて、性が分からない実生のサンプルを林内の2箇所から集めて性を判別したところ、性比は1:1から偏ってはおらず、場所による差も見られなかった。したがって、雌雄異株植物の研究で前提とされてきた条件がナギでは支持された。


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