| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-123 (Poster presentation)

多雪地域における蘚類エゾスナゴケの生活史と生育環境の関連性

H.Shirasaki*Biological Lab. Niigata University of Pharmacy and Applied Life Sciences

多雪地域にあたる新潟県、およびその隣接地域において、エゾスナゴケRacomitrium japonicum は、海岸沿いの低地から2,390mの高地まで広く分布する。異なる環境要因に対する適応を解明するため、配偶体の光合成、胞子体の成熟と環境を詳しく調査した。

AMeDASのメッシュ気候値による気温、積雪深、8月の可能蒸発散量の要因に対する本種の分布頻度を算出し、関連性を調べた。異なる環境と生育状態は、低地の40m、内陸の600m、高地の1,380mの三地点を設定し、各地点の温度・湿度・日射量を観測した。光合成については、月1回、光合成蛍光収率を測定した。

垂直分布の限定要因は、8月の可能蒸発散量と暖かさの指数が最も重要と考えられる。三地点の積雪は大差があり、多雪地ほど生育期間は短縮される。気温は夏に最高で、内陸の山岳部の夏季の相対湿度は90%以上だが、低地では78〜81%で、高温と強い乾燥状態にある。受精は、低地では8月下旬、内陸の山岳部では7月上旬である。減数分裂は11月である。胞子体の発達は冠雪まで続き、少雪地では冬も成熟して春に胞子を散布する。多雪地では、胞子体の発達は停止し、消雪直後から急速に胞子体を成熟させる。海抜600mでは5月上旬に、海抜1,380mでは5月下旬から6月上旬に胞子を散布する。胞子体の成熟は積雪によって遅れる。もし、受精と減数分裂の時が決まっているなら、春の消雪が遅くて初冬に早く雪が降る地域では胞子体の形成が阻害される。従って、本種の胞子体形成は1900mで限界と考えられる。光合成蛍光収率は、季節的な気温、湿度、積算日射量の変動と無関係である。植物体に水分があれば低温でも光合成するが、乾燥すれば光合成しない。


日本生態学会