| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-129 (Poster presentation)
リグニン分解菌は、落葉の白色化(漂白)を引き起こすことが知られている。リグニンは落葉の主要な構造成分だが難分解性であるため、リグニン分解菌の定着は落葉分解の律速要因となることが予想される。しかし漂白を引き起こす菌類の多様性や分解活性などに関する基礎情報が、特に熱帯地域で乏しいのが現状である。本研究では、菌類による落葉漂白の生態を明らかにすることを目的として、沖縄本島北部の亜熱帯林において、落葉の漂白とそれに関与する菌類の生態と機能について調査を行った。10年に及ぶ観察の結果、39種の植物において落葉の漂白が認められた。このうち20種の落葉で比較すると、リグニン濃度の高い落葉や、菌類にとって分解しにくい落葉ほど、漂白面積率が高い傾向が認められた。漂白部では、同じ落葉の漂白を受けていない部位(非漂白部)に比べて、葉面積あたり葉重量(LMA)とリグニン濃度が低く、セルロース、可溶性有機態窒素、アンモニア態窒素の各濃度が高かった。落葉の漂白部では8属(子囊菌類3属、担子菌類5属)の菌類の子実体が観察された。18種の植物について漂白部の葉組織内から表面殺菌法により漂白菌を分離したところ、116菌株が得られた。それら菌株の分類群をrDNA ITS領域の塩基配列に基づいて検討したところ、76%が子囊菌類(主にクロサイワイタケ科)、24%が担子菌類(主にホウライタケ科)であった。8属の菌類47菌株について滅菌落葉への接種試験により潜在的な分解活性を評価したところ、いずれの属においてもリグニン分解活性が認められたが、クロサイワイタケ属では他の属に比べてリグニン分解活性が低かった。以上から、亜熱帯林では多様な菌類が難分解性の落葉からリグニンを除去しており、それにともなって炭素と窒素のターンオーバーが促進されていることが示された。