| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-132 (Poster presentation)

ナメクジによるきのこの摂食部位の菌種による違い

澤畠拓夫*, 富田晴名(近大農)

ナメクジはきのこを好んで摂食する動物として知られるが、菌類と動物の相互作用に関する研究の中で、ナメクジを扱ったものは僅かである。咀嚼可能な口器をもたないナメクジはコケやシダ類では胞子散布者となることが既に証明されており、菌類に対しても同様の機能を発揮している可能性が高い。しかし胞子散布者としての機能を議論する前に、そもそも野外において菌類胞子または胞子形成部位を摂食しているのかどうかについて知見を集積する必要がある。そこで本研究では、近畿大学農学部キャンパスのアカマツ林内においてチャコウラナメクジによるきのこの摂食部位とその面積比の菌種による差異を調べた。その結果、ベニタケ目に属するアカハツ、ベニタケ属の1種とモエギタケ科に属するニガグリタケの3種では、きのこの成長段階に関わらず、ほとんどが傘の上面のみを有意に摂食し、子実層(傘の裏面)の被食面積は僅かであった。一方、ヌメリイグチ亜目の地上生菌の2種チチアワタケ、ヌメリイグチでは、幼菌で傘が閉じている時には傘の表から孔を穿つようにして内部を摂食したが、傘が開いた後は、上面をほとんど摂食せず、傘の裏側の子実層面を選択的に摂食し、子実層が完全に食い尽くされた子実体も少なからず観察された。同目の地下生菌の1種ショウロでは、内部に穿孔して子実層部分を選択的に摂食していた。以上から、ナメクジは野外において主に子実総部位を摂食するかどうか、すなわちナメクジによる胞子散布への影響は菌種によって異なることが明らかとなった。また子実層を主に摂食された菌種は同じヌメリイグチ亜目の地上生種と地下生種であり、両者は系統学的な類縁関係があることから、ナメクジに子実層を好んで摂食される性質は菌類の系統関係に基づくものである可能性が高い。


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