| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-148 (Poster presentation)

摩周湖における樹木減少について

北海道立総合研究機構 環境科学研究センター *山口高志,野口泉

北海道東部に位置する摩周湖外輪山で、主要な樹種であるダケカンバの枯死とササ原への移行が観察されている。樹木の枯死要因の一つとしては、オゾンや酸性霧など直接的なダメージを与える大気汚染物質の可能性が指摘されている。これらのことから弟子屈町との共同研究として、摩周湖周辺における樹木衰退域の推定と過去の写真などによる景観変化の確認にあわせて、その要因として大気中オゾン濃度と観光道路を通行する車両排ガス濃度、霧の酸性度など化学性および沈着量について調査研究を行っている。

これまでの調査の結果、展望台周辺など外輪山稜線付近(標高500-600m)で1960年代と比較して樹木が減少しており、2000年以降にも樹木立ち枯れが観察されている。これら樹木衰退域は観光道路がある摩周湖西部のみならず南西部から北西部に主に分布しており、車両排ガスは主要因ではないと考えられた。オゾン濃度はダケカンバ展葉期(6月)より前の3-4月には月平均濃度60ppb以上になる場合が確認されているが、展葉期以降では20 ppb程度に低下するため、影響については検討が必要である。

霧はpH3台の酸性度を示す場合が確認されたが頻度は少なく、平均的には植物に影響を及ぼすほどではなかった。一方、霧に含まれるアンモニウムイオン濃度が高く、霧による窒素沈着量は6-9月の4ヶ月間で約4kg-N/haと見積もられた。これは降水による年間窒素沈着量に匹敵する量である。摩周湖の夏季の主風向は南であり、酪農業の盛んな根釧地域から発生したアンモニアガスの寄与があると考えられる。また摩周湖での夏季の大気中アンモニアガス濃度は太平洋沿岸に比べて高く、摩周湖周辺の農業地域からの影響もあると考えられる。

今後は人為的攪乱などについての過去情報収集とササの植生調査について検討を行う。


日本生態学会