| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-161 (Poster presentation)

明るい林や林縁の広がりが規定するクツワムシの分布:都市近郊と山間部における分布変遷の違い

*清川 紘樹,宮下 直(東大・農)

明るい林は、人為により維持され、里山景観を構成する二次環境である。里山にすむ生物種のなかには、明るい林を主な生息場所としてきたものがいる。しかし、意外にもそうした種の分布を規定する要因については知られていない。本研究では、都市近郊と山間部において、明るい林にすむ種の分布制限要因を探索する。都市近郊では近年、開発や管理放棄にともない明るい林の減少が進み、多くが断片化した暗い二次林に置き換わった。そうしたなか、残存した二次林のなかには明るい林やそれに類似した環境の林縁が残されており、明るい林にすむ種の存続を支えている可能性がある。一方で、深い森林に覆われてきた山間部では、長い間それらの二次環境が少ないままであり、そうした種の分布が広がりづらかったと推測される。

対象とする都市近郊と山間部は、明るい林の減少が進む千葉県北西部と、地域内のほとんどを山林が占める長野県天龍村周辺をそれぞれ選んだ。対象種は、移動性が比較的低いと想定されるキリギリス科の鳴く虫、クツワムシとした。両地域において、過去と現在の景観構造およびクツワムシの分布を調べて比較した。

千葉県北西部では明るい林が大きく減ったものの、残された明るい林や暗い二次林の林縁にクツワムシが生息していた。一方の天龍村周辺では、数十年前から明るい林が少ないうえに林縁も川沿いに限られていた。クツワムシの分布も川沿いに集中しており、ここ数十年の間でほとんど広がっていなかった。この原因として、分布の拡大経路が川沿いに限られているうえ、大きな集落や支流などで分断されていることが考えられた。これにより、明るい林にすむ種の分布は、山間部においてより広がりづらいと考えられた。


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