| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-209 (Poster presentation)

ヤスデ類における種分化とミュラー型擬態を含む警告色の多様化

*田辺 力(熊本大・教育), 本間 淳(琉大・農), 持田浩治(慶應大・経済), P. Marek(ヴァージニア工科大・昆虫), 曽田貞滋(京大・院理), 桑原保正(富山県大・生工科・生工研セ; JST, ERATO)

体色のミュラー型擬態の形成メカニズムは明らかではない。本州から九州にかけて分布するミドリババヤスデ種複合体とアマビコヤスデ属は、共に似た灰色の体色を呈している。これらヤスデ類は青酸系分泌液を持つことから、灰色は警告色であり、灰色の類似は鳥類捕食者に対するミュラー型擬態環の例と考えられる。ミドリババヤスデ種複合体のいくつかの系列は灰色擬態環から祖先状態のオレンジもしくは灰とオレンジの中間色へと移行している。演者らは、この灰色擬態環からの抜けだしの要因として、これらヤスデ類の捕食寄生者であるイエバエ科のハエ類に注目している。関西地方で得られた445個体のヤスデについてハエ寄生の有無を調べたところ、寄生は灰色のヤスデ種のみで見られ(267個体中32個体に寄生)、オレンジ種(65個体)と中間色種(81個体)では見られなかった。よって、ハエは灰色のヤスデを選択して寄生している可能性がある。灰色は鳥に対してはミュラー型擬態の利点を享受できるが、ハエに対しては逆に不利になり、ハエの寄生が多い地域では、ミドリババヤスデ種複合体の灰色種は灰色のミュラー型擬態環を抜けだして中間色やオレンジへと移行しているのかもしれない。地理的に見るとミドリババヤスデ種複合体におけるオレンジ種への移行は関西及びその周辺地域に限られ、中間色への移行もこの地域に多い。この地域において本種複合体では交尾器・体サイズの多様化による多発的種分化が生じており、それが種間の体色の多様化を通じてオレンジや中間色への移行を促している可能性がある。本発表では、補食者の違いによる体色の機能的トレードオフと種分化がミュラー型擬態の形成に及ぼす影響について議論する。


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