| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-213 (Poster presentation)

ミツバツツジ節3種の交雑帯における遺伝構造

*菊地賢,渡邊定元

異所的に分化を遂げた分類群が二次的に分布を接したとき、ときに交雑し交雑帯を形成する。このような交雑帯は生殖隔離の進化、遺伝子浸透や雑種種分化といった種分化過程の重要なプロセスの場となると考えられ、種分化研究の研究の材料として注目されている。

ツツジ属ミツバツツジ節は、日本列島で多様化した分類群である。多くの種は異所的に生育するが、富士山山麓の溶岩帯には、ミツバツツジ節の3種、ミツバツツジ、キヨスミミツバツツジ、トウゴクミツバツツジが混生する地域が見られ、2種あるいは3種の中間的な形質を示す個体が見つかっている。そこでミツバツツジ節交雑帯が種分化に果たす役割を解明するため、富士市大淵丸火および裾野市十里木丸火においてミツバツツジ類のサンプリングを行い、核SSR解析およびITS領域の塩基配列解析をおこなった。

Structure解析の結果、純粋種に識別された個体では、ミツバツツジとキヨスミミツバツツジ・トウゴクミツバツツジとの間に遺伝的差異がみられ、これら2群間の雑種とされるアワミツバツツジ・ムサシミツバツツジは中間的な遺伝的変異を示した。しかしNewHybrids解析からはこれらがF1雑種であることは支持されなかった。一方、ITS領域の塩基配列によって8種類のハプロタイプを得たが、ほとんどのハプロタイプが分類群間で共有されており、形態分類とは一致を見なかった。

以上からは、ミツバツツジ類交雑帯はF1雑種から構成されるわけでなく、複雑に交雑を繰り返しhybrid swarmを形成している可能性がある。今後、交雑帯の遺伝構造をさらに検証するとともに適応的遺伝子の解析等をおこない、交雑帯の進化的役割を明らかにしていく必要があるだろう。


日本生態学会