| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-214 (Poster presentation)
小型ネコ類の中で最も広域に分布するベンガルヤマネコPrionailurus bengalensisは、熱帯から亜寒帯まで多様な環境に生息しているにも関わらず、多くの個体群で主に齧歯類を採餌していることが報告されている。しかし、本種の一亜種であるイリオモテヤマネコP. b. iriomotensisは、在来齧歯類が生息していなかった小島嶼に数万年に渡り個体群を維持しており、様々な動物を採餌する特異な食性を示す。また、かつてその頭骨形態から新属新種として記載されたことから伺えるように、イリオモテヤマネコの頭骨は他個体群と異なる様相を呈している。イリオモテヤマネコの頭骨形態の特徴は、その食性に起因するものであると予想し、東アジアの台湾、西表島、対馬の3個体群を対象として採餌生態と頭骨形態の比較を行い、イリオモテヤマネコの頭骨形態の特異性とその要因を明らかにすることを目的とした。胃内容物(西表 n=25, 対馬 n=49)と先行研究からの糞内容物を用いた食性比較の結果、イリオモテヤマネコは他個体群に比べ、爬虫類を高頻度で捕食していることが明らかになった。硬い鱗を持つ爬虫類は飲み込むために多数回咀嚼する必要があり、胃内容物の断片サイズから咀嚼回数は爬虫類の体サイズに関わらず小さなトカゲ類でも多数回咀嚼していた。また、頭骨形態比較(台湾 n=15、西表 n=31, 対馬 n=24)では、特に下顎のプロポーションに違いが見られ、イリオモテヤマネコでは他個体群よりも餌動物を噛み切るための臼歯を強く動かす咬筋が発達していることが示された。これらの結果から、イリオモテヤマネコは台湾や対馬の個体群よりも硬い爬虫類をより多く捕食することにより咬筋を発達させることによって特異な頭骨形態を持つことが示唆された。