| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-301 (Poster presentation)

孵化直後の両生類幼生は溶存アミノ酸を体組織に取り込む

*片山昇, 小林真, 岸田治(北大・FSC)

溶存有機窒素(DON)は水中の有機態プールの主要要素で、細菌のような微生物はDONを直接利用(吸収)し増殖できる。一般に「微生物に取り込まれたDONは、食物連鎖(すなわち、DONが微生物を増やし、その微生物を原生動物が食い、その原生動物を動物プランクトンが食うといったように続くボトムアップカスケード)により、間接的に食物網の上位に位置する動物に輸送される」と信じられている。言い換えると、現在の食物網の理論では、DONから動物へのエネルギーの伝達には「多くの真核生物が捕食—被食関係で連続的に繋がる‘長い経路’が必要」と仮定している。本研究では「この経路が短縮する可能性」を提示する。つまり「真核生物がいなくても脊椎動物は、DONの主成分であるアミノ酸由来の物質を体内に取り込む」ことを、孵化直後のサンショウウオ幼虫を用いた実験で示す。

本研究ではまず8種の主要なアミノ酸に着目し、幼生の成長に影響するアミノ酸を探索した。テストしたアミノ酸のうち、5種で幼生の成長が促進することを見つけた。次に、効果の高かったアミノ酸(フェニルアラニン)を用いて、「アミノ酸由来の窒素が幼生体内に取り込まれるか」を確認する実験を行った。安定同位体(15N)で標識されたフェニルアラニン溶液で幼生を飼育し、尾部の15N濃度を調べた結果、成長の良い個体ほど尾部の15N濃度は高かった。実験では、溶液から幼生以外の全ての生物を取り除くため、濾過後にオートクレーブした水を使用し1日おきに水を交換した。実験中に細菌が再び増殖した懸念は残るが、溶液には幼生以外の真核生物はいない状況を維持していた。これらの事実を考慮すると、「幼生は、溶存アミノ酸を直接吸収あるいはアミノ酸を取り込んだ細菌の消費を介して(つまり真核生物を介さない短縮した経路で)、溶存アミノ酸を利用し成長した」と考えられる。


日本生態学会