| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-444 (Poster presentation)

ハス群落内部におけるユスリカ幼虫へのメタン食物連鎖の寄与の季節変動

*安野翔(仙台市), 迫裕樹(東北大・院・生命), 鹿野秀一(東北大・東北アジア研), 芦澤淳, 藤本泰文, 嶋田哲郎(伊豆沼財団), 菊地永祐(宮教大)

ユスリカ幼虫がメタン酸化細菌を摂食することで、メタン起源の炭素原子を体内に取り込んでいることが明らかになりつつある。このような経路をメタン食物連鎖と呼び、メタン起源炭素原子の低い炭素安定同位体比(δ13C値)によって検出可能である。成層しない浅い湖沼では、メタンの供給が最大となる夏にメタン食物連鎖が最も駆動する。しかし、宮城県の伊豆沼(最大水深1.6m)では、近年急速な勢いでハス群落が拡大しており、夏に顕著な貧酸素化が生じている。本研究では、ハス群落によるメタン食物連鎖の季節変動への影響を明らかにするために、2014~2015年に伊豆沼において、ハス群落内外でオオユスリカ幼虫のδ13C値と堆積物中のメタン濃度を測定した。

堆積物中のメタン濃度については、ハス群落内外ともに7~10月にピークを示し、年間、地点間でピークの時期は異なった。2014年では、群落内の表層から5-6cmの層が9月に最高値(10.0μg/g(湿重量当たりの炭素量))を示し、2015年では7月に群落内の5-6cmの層で最高値(14.7μg/g)を示した。オオユスリカ幼虫のδ13C値は、夏には低下せず、8月のハス群落内では1個体も採集されなかった。その後、10月からδ13C値は低下し、翌春まで低い個体(–60~–40‰)が見られたが、5月には低い値の個体は認めらなくなった。8~9月に湖底が貧酸素化することでメタン食物連鎖は駆動しなかったが、秋に湖底に酸素が供給されてメタン食物連鎖の寄与が増加したものと考えられる。幼虫は翌春まで低いδ13C値を保持するが、5月の羽化に伴って幼虫個体群から抜け出すため、低いδ13C値を示す個体がいなくなったと考えられる。


日本生態学会