| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-451 (Poster presentation)
2011年の福島第一原子力発電所の事故によって大量の放射性物質が放出された。その中でもセシウム137(以下Cs)はその半減期が比較的長く、長期的な生態系への影響を考える必要がある。また、日本では国土の7割を森林が占めるため、森林における放射性物質の動態を明らかにすることが重要である。本研究では、各栄養段階のCs濃度(Bq/kg)を調べることで、集水域に存在するCsの総量(Bq/m2)を推定する。
調査は福島県伊達市小国地区上流の小集水域の森林で行った。調査地では、林内にプロットを設定し、毎木調査を行った。さらにプロット内にコドラートを設定し、全生物とリターを採集した。河川でも同様に、全生物とデトリタスを採集した。また、コナラとスギを伐倒し、各部位の生物量を計測した。これら全てのサンプルのCsの濃度を測定し、生物量と掛け合わせることで面積あたりのCs総量を算出した。
各要素のCs濃度を比べると、リターや樹木樹皮、スギの枝葉、腐植食者で高い値がみられた。これらの高濃度のCsは、事故当時に降下したものが直接沈着したものであると考えられ、腐植食者はリターのCsの影響だと考えられる。面積あたりのCs量の内訳を見ると、リターと樹木で全体の99%以上を占めていた。また、Csが直接沈着したと考えられる要素を除くと、樹木の心材、辺材においてCs量が多く、ついで林床の植物で多かった。しかし、その他の要素におけるCs量は少なく、直接沈着した部位からのCsの移動は限定的であることが示された。リターや樹皮に沈着したCsは不動化され、多くのCsが残留していると考えられる。また、河川におけるCs総量の大半はデトリタスのCsが占めていた。
これらの結果から、調査地の集水域では5.9万Bq/m2のCsが集積していると推定された。