| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-461 (Poster presentation)
モウソウチクの稈密度の違いが林分スケールの水利用に与える影響を調べるため、福岡市近郊の非管理竹林内20×20mの区画において50%程度の間伐を行い(11000から5700本/ haへ)、その後の樹液流速・林分蒸散の変化を解析した。樹液流測定はグラニエ法を用い、間伐は2013年8月初頭に行った。
間伐区の稈の平均樹液流速は、その直後から間伐前に比べ20~50%の増加を示した(日中飽差が同程度の日で比較。以下同様)。翌2014年春、間伐区には多数の新稈(筍)が生じた。林分全体の稈密度を一定に保つように、増加した本数分、新稈・既存稈双方を同じ割合で再び切除し、最終的に林分基部面積の25%相当が新稈に入れ替わった。2014年夏、既存の稈において樹液流速の低下が認められ、概ね間伐前のレベルに戻った。一方で当年の新稈では、その既存稈の2倍近くの高い樹液流速が観測された。同時期、隣接する高密度の非処理区(9000本/ha)に生じた新稈の樹液流速は、周囲の既存稈よりもわずかに高い程度であり、間伐区ほど顕著な高値は示さなかった。両区画の新稈における樹液流速の差は、葉への日当たり、稈単位で利用できる水分量の差などに起因するものと考えられた。林分スケールの蒸散量では、間伐区における新稈の高い樹液流速を加味しても、間伐前の林分蒸散量には達しなかった。ただし、間伐区の稈がすべて新稈に置き換わり、またその高い樹液流速を維持するものと仮定すると、稈密度の半減を完全に補償し、間伐前と同程度の林分蒸散量に達することがわかった。
これらの結果から、モウソウチクにおいて、稈密度の(人為的な)低下は必ずしも既存稈の水利用を促進するわけではないが、蒸散量の大きな新稈との入れ替えを通し、林分スケール、即ちジェネット全体として水利用を維持する作用があることが示唆された。