| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T01-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

生態学における階層モデル:その概念と利点

*深谷肇一(統数研), 飯島勇人(山梨県森林研), 伊東宏樹(森林総研), 正木隆(森林総研)

本講演では、階層モデルと呼ばれる統計モデルについて、概念的な側面と数理的な側面からその特徴を整理し、生態学研究における応用上の利点を述べる。階層モデルとは、状態プロセスや観測プロセスを表す一連の条件付き部分モデルから全体が構成される統計モデルである。こうした構造は、生態学研究で普通に見られる階層的なデータ生成プロセスを自然、かつ柔軟に表現するのに適している。階層モデルには通常、未知量として状態変数(ランダム効果)とパラメータが含まれており、これに関する統計的推測が観測データに基づいて行われる。生態学研究においては、生態学的に解釈できる状態変数を含む階層モデル(明示階層モデル)と、データのばらつきを現象論的に説明するに過ぎない階層モデル(非明示階層モデル)を区別することが重要である。また階層モデルは統一的な統計モデルであり、生態プロセスの変動性の推定、観測誤差の説明、異なる種類のデータの統合など、様々な問題が階層モデルによって定式化される。特に階層モデルによる観測誤差の定式化は、関心があるが直接的には観測できない状態変数や生態プロセスに関する偏りの少ない推定の実現に役立つとともに、調査計画の検討にも有用である。階層モデルが統一的であることはまた、私たちが多数の統計モデルの背後にある関連性を理解し、推測の対象であるシステムに関する明示的なモデルを構築することに役立つ。このように、階層性の概念に基づく階層モデリングには概念と実用の両面で利点があり、データに基づく生態学研究を促進する強力な解析アプローチである。


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